Q |
当社は来年の分社化に伴い新規採用を募っていますが、その新会社の核と
なる社員を当社から5名程出向させる予定です。先日の会議でその社員5名
を選抜したのですが、その内の1名が自宅から離れるのは困るとして拒否し
てきました。当然、その分の通勤手当は支給するつもりですし、そのような事
をいちいち聞いていたら他の4名にも影響を与えかねません。どうするべきな
のでしょうか? |
A |
原則論としまして、出向は労働者の同意が必要とされます。これはその都
度個別的に同意を求める必要があると解すことができますが、おっしゃる
通り、会社は組織で回っているためイチイチ個人個人の意見を尊重してい
たのでは回るものも回らないと考られるのも当然と言えます。そのために必
要となるのが「労働協約」や「就業規則」なのです。就業規則等で出向を命じ
ることがある旨を明確にしておけばその都度個別的な同意を得なくても出向
を命じることができると判断された判例もあります。(昭55・4・21松山地裁)
就業規則等で明確に定められていれば、その出向が極端に不合理なもの
でない限り有効とされるでしょう。即ち、労働者は拒むことができないと言え
そうです。では、就業規則に明確に定められていない場合はどうなるのか、
この場合、本人の同意が必要になります。裏を返せば労働者が断れば出向
させることはできないと言うことになります。その他、出向においても「転籍」
というものもあります。「転籍」とは従業員の籍を出向先に移すわけであり、
現在の会社を退職することを意味します。この場合は労働者の個別的な同
意が必要となります。いずれにしましても、なぜ不都合なのか(家族介護な
ど家庭的な事情があるのかも知れません)を把握し、出向の必要性や適任
である理由などをもう一度説明し確認されて見る必要があるでしょう。また、
家庭的な事情がある場合は十分な配慮に心掛ける必要があり、そこが欠け
ると、それこそ組織としての秩序が乱れる危険性があります。 |
<参考>
日東タイヤ事件:最高裁判決(昭48・10・19)
日本電気事件:東京地裁判決(昭43・8・31)
秋田相互銀行事件:秋田地裁判決(昭43・7・30) |